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「白いぼうし」 実践記録 その1

光村図書4年(上)の物語教材「白いぼうし」の教材分析と実践記録。

教材について

本教材の魅力は何か。大きく二つある。

①子どもの想像力を高めるファンタジーの世界

初読のとき、読者は松井さんの視点で読み進める。たとえば、車に戻るというところを、松井さんの視点で読んでいくと、女の子は、「普通の女の子」として読むことになる。しかし、結末まで読むと、女の子は、ちょうの化けた女の子ではないか、という読みが可能になる。
 さらに、再読のときには、物語の松井さんは、女の子の正体を知らないが。読者は、その正体を知り、ちょうであると考えながら、読みを味わうことができる。そのように読めば、「道にまよったの。行っても行っても、四角い建物ばかりだもん。」というセリフは、「女の子」かもしれない、「ちょう」かもしれないという、どちらとも考えられる二重の解釈ができる。その曖昧さが、ファンタジーとしての楽しさであり、この作品の魅力である。

②松井さんという人物の温かさ・優しさ

様々な実践記録を読んだが、必ず取り上げられるのが、松井さんの人柄である。視覚、嗅覚に訴える美しい叙述の中で、描かれる松井さんの言動からは、温かさ・優しさを読みとることができる。学習を進めるに従って、これらも読み深められるようにしていきたい。

1992年に、雑誌・実践国語研究別冊で、『「白いぼうし」の教材研究と全授業記録』という本が出ている。この本に、子どもたちの初発の感想が収録されているが、「女の子」の不思議さに関するところに、子どもたちの感想が集中していた。本学級での初発の感想も、同様に、女の子に関する内容が、圧倒的に多かった。
 「女の子は、ちょうが化けていた」という読みに、子どもたちを導くことは難しいことではない。そのように、とらえさせるための叙述は、本文の中にたくさんあるし、すでに初発の感想の段階で、論理的にそのことを記述している子も数名いる。女の子がちょうである根拠を話し合うこともするが、授業でそれを決めつけてしまうのは、ファンタジーとしての楽しさを半減させてしまうように思われる。
 「ちょう」か「普通の女の子」かという問題は、「どちらでも解釈できるね」というような曖昧さも残しておくようにしたい。
 初発の感想において、女の子やちょうに関すること以外では、

A「なぜ、松井さんは夏みかんを車に乗せたのか」
B「なぜ、松井さんは夏みかんを白いぼうしの中に入れたのか」
C「なぜ、タイトルが白いぼうしなのか」

というところにも、子どもたちは疑問をもった。

AやBの問題を追求することによって、松井さんの人柄が明らかになっていく。子どもたちにとって難解なのは、Bの方だろう。優しい言動ばかりの松井さんだが、このいたずらめいた行為だけは、物語の中では一見、異質に思える。だが、小さな男の子の気持ちを想像し、「ちょう」が男の子にとって、どんなに大切な物であるかがわかったからこそ、松井さんは自分にとって大切な夏みかんを差し出すことを思いついたのだろう。上手くいくかは、わからないが、子どもたち同士の話し合いで、このことが明らかになっていくよう、授業を組み立ててみたい。

Cの問題も、難解である。これについては、西郷竹彦氏が『子どもの見方・考え方を育てる小学校中学年・国語の授業』の中で、以下のような明快な図を示している。(P86)

このようにキーワードを図示すると、「白いぼうし」を媒介にして、すべての登場人物・キーワードがつながっていることが明確になる。
子どもたちも、なぜタイトルが白いぼうしなのかということを考えさせたい。

授業の記録

その1

音読を何回かした後、子どもたちに次のような課題を出した。

発問 . 1

このお話は、誰が何をした話ですか。短くノートに書きなさい。

話のあらすじをつかむための課題である。
早く書けた子に、黒板へ書かせた。
文を並べてみると、おもしろい。書いた文は、みんな少しずつ違っている。
話のあらすじとしては、どの文がよいのか。手を上げさせた。

A 松井さんが、白いぼうしを拾った話。 (4人)
B 松井さんが、白いぼうしを見付けた話。 (5人)
C 松井さんが、ちょうを助けた話。     (4人) 
D 松井さんが、白いぼうしの中身を変えた話。 (5人)
E 松井さんが、ちょうを逃がした話。 (3人)
F 松井さんが、ちょうと夏みかんを入れかえた話。 (8人)

違いを話し合うことで、様々なことに気が付く。

「A~Fで、どの文がよいのか、あるいはよくないのか、意見を言ってもらいます。近くの人と相談してごらんなさい。」

少し相談の時間をとったあと、子どもたちに意見を言ってもらった。

ABDEには、すぐに意見が寄せられました。

A・B → 白いぼうしを拾った後、どうなったのか分からない。
D  → 同じ内容だが、Fの方が詳しく書いてある。
E  → 松井さんは、ちょうをわざと逃がしたわけではない。

最後に残ったのは、CとFである。
Cについては、支持する子と反対する子で、軽い論争になった。

「ちょうがよかったね、よかったよと言っているから、Cがよい。」
「松井さんがちょうを助けたのは、偶然だからCは違う。」

一通り意見を聞いた後、CとF、どちらがよいと考えるか、手を上げさせた。
Cに上げた子が9名。Fに上げた子が20名。
松井さんが男の子をびっくりさせるということにおもしろさを感じた子はFに、
松井さんの行為によって結果的にちょうを助けることになったと考えた子は、Cに手を上げたのだろう。
自分なりの根拠をもって、理由を話せることは、大切な国語の力である。今回は、どちらも認めた。

いろいろな意見が出て、それらを比較検討をすると、学習が深まる。
そのような授業をたくさんやっていきたい。

その2

子どもたちの意見がたくさん出る授業をしたい。
文章を読んで想像したこと、考えたこと。楽しく発表してほしい。
次のように授業をした。(2時間分の授業の記録。)

発問 . 2

松井さんは、どんな人柄ですか。

ノートに書かせた。一番多かったのは、「やさしい」である。

発問 . 3

「やさしい」ということに、ちょっと当てはまらないかもしれないという行動はないですか。

「白いぼうしの中に、夏みかんを入れたこと」という意見が出た。

発問 . 4

松井さんが夏みかんを入れたことに、賛成ですか。反対ですか。

作品の登場人物に自分を重ね合わせて、あれこれ想像してもらった。
学級の子どもたちの意見は、2つに分かれた。

【賛成】13人
 ・男の子ががっかりする。
 ・不思議な気持ちになる。
 ・また、ちょうをつかまえるのは難しい。
 ・かわいそう。ちょうもかわいそう。
 ・男の子が悲しむ。
 ・夏みかんがもらえてうれしい。
 ・ちょうを逃がしてあげたことになる。

【反対】16人
 ・男の子はちょうがほしかったのに、かわいそう。
 ・男の子がびっくりしてしまう。
 ・わたしが男の子だったらくやしい。
 ・ぼうしの中に勝手にみかんを入れるのはおかしい。
 ・もんしろちょうをもう一度つかまえればいい。
 ・もんしろちょうを逃がしてしまったことを伝えればよい。
 ・松井さんは、「ごめんなさい」と謝るべき。
 ・夏みかんがもったいない。

全員が発表できた。
だが、発表をしただけでは、深まらない。
その後、子どもたちだけで、話し合いをしてもらった。
教師は指名をせず、言いたい人が立って「質問、賛成、反対」を言っていく方法を教えた。
【指名なし討論】である。

子どもたちは、次のようなやりとりを行った。

「不思議な気持ちになる、うれしいという意見に反対です。男の子がびっくりしてしまうからです。」

「ちょうをもう一度つかまえればいい、という意見に反対です。松井さんはおじさんなので、ちょうをつかまえるのは、難しいです。」

「松井さんは、わざとちょうを逃がしたわけではないので、謝らなくてもいいと思います。」

「わざとでなくても、謝った方がいいと思います。」

「お客さんがいるので、謝りに行くのは難しいと思います。」

「夏みかんを入れたことに賛成です。もう一度捕まえたら、ちょうがかわいそうだからです。」

積極的に意見を言った子がたくさんいた。立派だと褒めた。

話し合いの結果、意見を変えた子がいる。
賛成が9人、反対が20人になった。
これは、読み手の価値判断に寄る問題なので、正解はない。
友達の意見と比べながら、自分なりの考えがもてればよい。
子どもたちの考えの幅を広げるために、教師は、少ない賛成側の立場で最後にコメントをした。

「夏みかんが松井さんにとって大切なものだとわかる文があります。
 (冒頭部分を探させる)
【ちょう】が男の子にとって、どんなに大切な物であるかがわかったからこそ、
 松井さんは自分にとって大切な夏みかんを差し出すことを思いついたのかもしれませんよ。」

その3

4年の国語では、次の学習をするように学習指導要領に書かれている。(旧指導要領)

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内容の中心や場面の様子がよく分かるように音読すること。
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それを受けて、教科書にも「白いぼうし」で「音読げきをしよう」という言語活動をすることが設定されている。

このような活動は、計画的に取り組まないと、たくさんの時間を浪費してしまう。

使った時間は、練習・本番合わせて、3時間。

以下のような段取りで行った。

①役割分担

全文を音読すると、時間がかかってしまうので、場面ごとにグループで音読箇所を分担した。
グループごとに、どの場面を読みたいか希望をとりました。
重なってしまったらじゃんけん。
場面が決まったら、今度はグループ内で、自分の読む箇所を決めさせた。
わいわい楽しそうに決めていました。

②音読の工夫と個別評定
 
ただ読んだだけでは、頭を使った学習にならない。
自分は何を頑張るのか、意識させた
音読の工夫には、次のようなものがある。

・強く読む、弱く読む。
・速く読む、ゆっくり読む。
・声の高さを変える。
・間をとる。
・気持ちを込める。【朗読】

やりたい工夫を教科書に書き込みをさせた。
技能として、実際そのように表現できなくても、意識できることが大切である。

その後、一人ひとりテストを行った。個別評定である。
短い時間で全員できるように、一文だけ。
テンポよく10点満点で評定していく。
全員やっても、時間は5分かからない。「1点!」「2点!」最初は厳しく付ける。
(ただし、楽しい雰囲気で。)
ときどき、4点、5点という得点が出る。張りのある、よい声だ。
クラスのみんなから「おぉ~!」という歓声が沸く。
中には、気持ちを込めて朗々と読める子もいる。
高学年でのめあてになるが、朗読の域に達するような子だ。
6点、7点という高得点が付く。高得点が出た子は、ガッツポーズをして喜ぶ。
授業の最後にもう一度テストをすることを予告して、練習の時間をとった。
みんなやる気になる。どんな音読がよいのか、具体的に努力の方向がわかったからだ。
そして、練習の時間をとる。
授業終了5分前。もう一度一人ひとりテストをした。
全員、一人残らず、先ほどの音読より上手になっていた。
翌日が、本番。

「家で練習してこよう!」

気合いが入っている子がたくさんいた。

③本番

どのグループも、よい発表だった。
当日の様子を映像に撮りお昼の校内放送で、全校のみんなに見てもらった。
また、保護者にも、懇談会のときに見てもらった。