直島と現代アートから見るまちづくり
直島と現代アートから見るまちづくり
(TOSS年末 伴・小嶋セミナー 2010.12.25(土) D表検定指導案)

1.主張
直島が観光客獲得に成功した理由から、自分たちのまちに人を呼ぶための
視点を育てる。
2.直島について
(1)直島の特徴
アートと人が融合した島、それが直島である。私が日本中で一番好きな場所である直島。今回の取材を含めると、合計11回直島を訪れたことになる。それでもまだまだ行きたくなるような魅力的な場所、それが直島なのである。直島には、ベネッセハウスや家プロジェクトなどさまざまなアート施設やアート作品が点在している。これらを総称して、「ベネッセアートサイト直島」という。また、香川県直島町は、平成18年度地域づくり総務大臣賞を受賞した。この時の受賞のコメントとして、(株)ベネッセコーポレーション取締役会長の福武總一郎氏は、受賞時に次のようにコメントしている。「継続的にアート活動を続けている(株)ベネッセコーポレーションと協働で町づくりを行い、アートの建築・自然・歴史の町として多くの観光客が訪れている。新しい観光地のモデルである。」また、直島は、「アートの楽園」と呼ばれる。それは、現代アート作家たちが自ら直島に出向き、直島で感じたことを形にした作品が展示されていることが特徴である。(日本を代表する建築家、安藤忠雄など)
(2)自然とアートの共存
観光客たちは、海を渡って日常の空間を離れ、アートを体感することができる。まず、直島の玄関口宮ノ浦港に着くと出迎えてくれるのが、草間彌生の作品「赤かぼちゃ」である。私は、草間彌生の作品が大好きで、全国の作品を見てまわっている。(鹿児島県・霧島アートの森、愛知県・あいちトリエンナーレ、長野県・松本市美術館など)真っ赤なかぼちゃのところどころに穴があいて、中に入
れるようになっている。「赤かぼちゃ」の背景には、美しい瀬戸内海が広がり、作品をさらに美しいものに変化させている。また、ベネッセハウスミュージアムへ行くまでには、一般観光客は約15分間歩いていくことになっている。そこにも仕掛けがあり、屋外アートが多数点在し、アートと自然を楽しみながら散策できるようになっている。中でも印象的な作品は、草間彌生の「南瓜」である。海岸に堂々と存在しているのである。「南瓜」の後ろには、またも
や美しい瀬戸内海が広がっている。屋外作品の醍醐味は、「自然とアートの共存・融合」なのである。このように、作品だけではなく、直島の自然、間近に迫る瀬戸内海の美しさ、温暖な気候が、直島を訪れる人々を「非日常」へと導いてくれることが特徴である。
(3)直島の過去と未来
①直島の歴史
直島は瀬戸内海のど真ん中にある。江戸時代からは、江戸幕府直轄に領地として栄えていた。明治以降香川県の所属となった。その後何度となく岡山県への編入が議論され、現在でも県への所属意識は弱く、「一島独立の気概」があるといわれている。
②(株)三菱マテリアルの直島進出
1919年、三菱合資株式会社の道徳は精錬所が直島の北部に進出した。現在島の北部を占める三菱マテリアル株式会社及び関連会社の進出のきっかけとなった。人口も精錬所立地時の3.5倍に増加し、当時の直島は「県内一豊かな自治体」であった。しかしながら、この時期をピークに、精錬所は機会化・人員整理をし開始し、1959年をピークとして職を求めて島を離れる人も増加した。
③藤田観光の直島の進出
観光の面では、1966年に藤田観光の子会社である日本無人島開発株式会社が島の南部に「フジタ無人島パラダイス」をオープンした。一時はフェリーに積み残しが出るほどの人気だったが、国立公園内であるための規制も大きく、第一次石油ショックと経済的な影響で、1987年藤田観光は事業を撤退することとなった。
④アートプロジェクトの変遷
現在の直島アートプロジェクトの背景
藤田観光の撤退後、新たに開発を行ったのが(株)ベネッセコーポレーション(以下ベネッセ)である。その後、幅広いベネッセの事業の一つとして、アートプロジェクトを専門とする(株)直島文化村が設立された。1985年、ベネッセの前身である福武書店(1995年(株)ベネッセコーポレーションに社名変更)の創業社長福武哲彦氏と、当時の直島の町町長三宅親連氏が会談し、直島を開発することになった。両者が出会ったきっかけは、三宅町長の甥である三宅員義氏が福武書店の社長室長であったことによる。「アートの楽園」といわれる現在の姿は90年代には構想されていた。
直島のアートプロジェクトの歴史
1994年に行われた「Out of Bounds」展では、美術館の建物から出て作品を展示し、その後の展開に大きな影響を与えた。1996年には、作家に足を運んでもらい直島でしかできない作品の制作を依頼するようになった。1997年には本村地区で古い民家を使用した「家プロジェクト」が始まる。2001年「The STANDARDスタンダード」展が開催される。2004年安藤忠雄の設計による地中美術館が完成した。地中美術館は福武氏が1999年にモネの作品「睡蓮の池」を購入した事がきっかけで構想された美術館である。地中美術館の完成した2004年前後から、観光客数は爆発的に増加したことから、世界中の現代アートファンから高い注目をあつめていることがわかる。2006年から2007年にかけて「NAOSHIMA STANDARD2直島スタンダード2」が開催される。この直島における継続的な活動が評価され、ベネッセは2006年メセナ大賞を受賞している。
3.直島での人との出会い
今回、小嶋・伴年末セミナーでD表検定を受けたいと決意した時に、「大好きな直島のことを授業にしたい!」と強く思った。そこで、休日を利用して11回目の直島訪問をすることにした。まず、直島町観光協会へ行った。直島でどのようにアートが広がっていったのかということに詳しい方はあいにく席を外しておられた。ここで、ベネッセハウスミュージアムの方がやはり詳しいであろうということを教えていただき、すぐに向かった。ここでも一番詳しい方は多忙のため、事前連絡のない一般の人との面会をすることはできないとのことだった。しかし、ここで運命の出会いを果たすこととなった。なんと、直島町観光協会事務局長の濵口敏夫氏と出会うことができたのだ。公務終了後に話を聞かせていただく約束ができた。あとでわかったことなのであるが、この方は福武書店の創業社長福武哲彦氏が直島でアートをすると決めた瞬間に同席していた、元直島町役場職員の方だったのである。
次に、ベネッセや町役場の視点だけではなく、地元の住民の方々の率直な意見もお聞きしたいと考え、「家プロジェクト」のある本村地区に向かった。そこでは、ひたすら歩き、街の中で出会う住民の方とお話をしてまわった。どの住民の方も笑顔が素敵で、こちらまでしあわせな気持ちになった。ここで出会ったのが、直島町観光ボランティアガイドの堺谷敏子さんだった。家の中にまで入れてくださり、直島の現代アートの解説はもちろんのこと、直島の歴史や町並み、のれんや屋号についてなど、多岐に渡るさまざまなことを、教えてくださった。そのときに感じたのが、「直島大好き!」という堺谷さんの思おである。彼女は、直島で生まれ直島育ち。直島が大好きで仕方がない様子が言葉や表情の端々から伝わってきた。堺谷さんの家でご馳走になったコーヒーとお抹茶の温かさは忘れることのできない思い出となった。
4.単元構成(全5時間)
第1時 沖縄県が観光客獲得に成功した理由
第2時 全国の有名温泉地が観光客獲得に成功した理由
第3時 直島が観光客獲得に成功した理由から、自分たちのまちについて考える。(本時)
第4・5時 自分たちのまちづくりについて考える。
4.本時の学習内容
(1)対象 小学6年生
(2)授業の流れ
現代アート、好きですか?
これは、ある芸術家が作った野菜です。
草間彌生 作「南瓜」のアップの写真
何かわかった人は手を挙げます。
草間彌生 作「南瓜」の全体の写真
みんなで、さんはい。
南瓜(かぼちゃ)。
草間彌生が作りました。
普通、芸術作品は美術館の中にあります。
この南瓜(かぼちゃ)、どこにあるでしょう?
畑の中。山。
こんなところにあります。
海の近くにある南瓜の写真を見せる。
南瓜(かぼちゃ)、指差してごらん。
このように、新しいアイデアで作られた芸術のことを現代アートと言います。
現代アート。(指示なしで読ませる。)
観光で有名な北海道札幌市。人口は約190万人。
観光客は、人口の約6倍の人が訪れます。
観光で有名な長崎市。人口は約45万人。
観光客は、何倍だと思いますか?
人口の約10倍の観光客が訪れます。
現代アートで有名な、香川県の直島。
人口は、たったの3500人。
観光客は、何倍だと思いますか?
なんと、人口の約150倍もの観光客が訪れます。
直島にたくさんの観光客が来るようになった理由は3つあります。
1つ目は、ベネッセハウスミュージアムです。
遠くの美術館に行くためには、ホテルに泊まります。
ベネッセハウスミュージアムは、美術館とホテルが一緒になったのです。
読みます。
島中がアート。
2つ目は、屋外アートです。
ふつう、アート作品は美術館の中にあります。
直島では、島中のあちこちに屋外アートがあるのです。
読みます。
島中がアート。
2つ目は、家プロジェクトです。
見た目は普通の家です。
古い家の中はどうなっていると思いますか?
ノートに書きなさい。
カラフルな数字の池や、大きな滝があります。
読みます。
島中がアート。
他にも、現代アートで成功したまちがあります。
新潟県「越後妻有・大地の芸術祭」です。
体育館の中に光のアートがあったり、山の中に文字があったり、草原に大きな花があったりします。
読みます。
まち中がアート。
あぼし一番街です。シャッターが閉まっています。感想をどうぞ。
先生は、あぼし一番街をアートで元気にしたいと思っています。
みんななら、どんなアートで元気にしますか?
ノートに書きなさい。
これから、みんなで考えていきましょう。
5.参考文献
教え方のプロ・向山洋一全集7知的追求・向山型社会化授業 向山洋一 著 明治図書(1999)
教え方のプロ・向山洋一全集44向山型社会・研究の方法 向山洋一 著 明治図書(1999)
向山型社会の全体像を探る 谷和樹 著 明治図書(2007)
瀬戸内アートの楽園 秋本雄史 安藤忠雄 ほか 新潮社(2006)
卒業論文【直島巡礼―香川県直島における観光現象の研究―】上田友香 大阪大学 人間科学部(2008)
直島会議V―アートと地域:マクロとミクロの間で― 江原久美子 ほか 株式会社ベネッセコーポレーション(2001)
Remain in Naoshima 秋元雄史 江原久美子 ほか 株式会社ベネッセコーポレーション(2003)
直島・家プロジェクト「角屋」 宮島達男 株式会社ベネッセコーポレーション(2001)
美術手帖2010年6月号増刊BT【瀬戸内国際芸術祭2010公式ガイドブック アートをめぐる旅・完全ガイド】大下健太郎 美術出版社(2010)
美術手帖2010年8月号増刊BT【あいちトリエンナーレ2010公式ガイドブック「アートの街」の歩き方】大下健太郎 美術出版社(2010)
美術手帖2009年8月号増刊BT【公式ガイドブック 大地の芸術祭 アートをめぐる旅ガイド】大下健太郎 美術出版(2009)
Pen[ペン]No.260 p26~97
西の旅No.13 p4~7
現代アートナナメ読み暮沢剛巳 東京書籍(2008)
観光カリスマ―地域活性化の知恵― 日本観光協会 (2005)
観光カリスマ URL http://www5.cao.go.jp/j-j/cr/cr07/chr07_3-1-6.html