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これなあに

向山型国語に挑戦61「これなあに」を教材研究した際の覚書です。2011年3月25日,3年生を対象に授業をしました。

一 上をみれば下にあり下をみれば上にあり、母の腹を通りて子のかたにあり

二 「ばあば」には二度会えて、「じいじ」には一度も会えないもの

【1】とりあえず黒板に書いて,子供たちに出題してみた。

3年生である。なかなか正解は出なかった。
数日後,一だけ正解が出た。
二については,私がヒントを出した。
「先生の口をよく見といてね。『ばあば』『じいじ』」
これで正解が出た。
しかし,これだけでは授業記録は書けない。

【2】ネットで出典を調べた。

すると,すぐにわかった。
「後奈良院御撰何曾」である。
『群書類従 第二十八輯 雑部』塙保己一(昭和7年発行)に載っている。
平成3年に復刻版が出ている。
これが斑鳩町立図書館にあった。

誰かが「母」「父」を「ばあば」「じいじ」に変えたのだ。変えたのは誰なのだろう?

【3】「上を見れば…」はわかるが,「母には…」がわからない。なんで「くちびる」なの?

じつは,「後奈良院御撰何曾」には解説書がある。
本居内遠著『後奈良院御撰何曾之解』である。
江戸時代に出た本だ。
『本居宣長全集 第六』という本に収録されている。

明治36年に出たこの本が,奈良県立図書情報館にあった。

「上を見れば…」のほうは,別に解説などなくてもいい。
だが,なぜ母に2度あうのがくちびるなのか。
これの解説は欲しい。
ところが,この解説がわけがわからない。
「母はもともと歯々の意味で,上くちびると下の歯があうのが1回,下くちびると上の歯があうのが1回,合計2回あうことになります。私の乳は私のくちびるがとどかないものなので,1度もあわないということになります。」という意味なのだろうか。
「是ら變じたる體の何曾にていとおもしろし」というのは「これらは体の部位の名前を変えているなぞなぞであって,たいへんおもしろい」という意味だろうか。

【4】『日本語の歴史』山口仲美(岩波新書,2006年)に次のような記述がある。

最初のうちは,この謎の意味が分からず,江戸時代には,なかなかユニークな解釈が出ています。「はは」は,「歯歯」のことで,上歯には上唇が出会い,下歯には下唇が出会う。だから,二回会う。「ちち」は「乳」のことで,これは唇がどうやっても届かないから出会わない。だから,乳には一回も会わない。

この山口氏の解釈まちがってますよね?
原典には「上唇と下歯下唇と上歯」と書いてあるではないか。
それはよいとして,山口氏は本居内遠の解釈は珍説だとして,正解を紹介している。

けれども,室町時代以前のハ行音の子音が江戸時代以後とはちがって,唇を合わせて発音する「ファ」「フィ」「フ」「フェ」「フォ」であると考えた時,謎々の答えが「唇」であることの意味が分かったのです。だって,お母さんを意味する「はは」を発音すると,「ファファ」となって,確かに唇が二回会います。でも,お父さんを意味する「ちち」を発音しても,唇は一回も出会いませんからね。

【5】以前,向山先生が字謎を出題されたことがあるなあ…と思って,調べてみた。

『向山型国語教え方教室』 2003年8月号に,岩田一博氏が書かれていた。

平成13年9月の漢字文化セミナーで向山洋一氏が提案した問題を追試すると,子どもは熱中した。向山氏があげた問題を紹介する。(文責は岩田にある)

①田の中に棒の1本立ちたるは,□か□か□か□。(□に入る漢字を当てる)
 ②鳥が九羽。何の鳥?
 ③梅の木を水にたてかえる。
 ④この糸何色?
 ⑤上を見れば下にあり,下を見れば上にあり,母の腹を通り,子の肩にあり。

このセミナー,私も参加していた。
平成13年9月24日,大阪コロナホテルにて。