拗音、拗長音の授業
1年生ひらがな指導「拗音、拗長音の授業」の実践記録。
その1
ひらがなの学習も、いよいよクライマックス。
教科書で残っているのは、「拗音」(きゃ・きゅ・きょ)と「拗長音」(きゃあ・きゅう・きょう)。
ここまでに、子どもたちは促音・長音・拗音を一通り学習している。
しかし、音節との関わりにおいては、まだ理解が不十分である。
向山洋一全集31、147ページに、向山氏が行った1年生の国語授業の一端が記されている。
言葉の音節を意識させるために、手を打ちながら言葉を言わせる授業だ。
その中で、「ちゅうりっぷ」をどのように叩くかが論争になったとある。
向山学級では、次のように意見が分かれた。
3回 … 15人
4回 … 4人
5回 … 12人
「ちゅうりっぷ」には、促音・長音・拗音のすべてが含まれている。
この言葉を使って、これまでに学習した音の復習と拗音・拗長音の学習を行った。
実際の授業は、まず2文字の言葉から扱った。
ひらがな2文字の言葉、何があるでしょう。
指名した子が、「ほん」と答えた。
以下、3文字、4文字、5文字と聞いていき、黒板は、次のようになった。
【ほん けいき ふでばこ ひざこぞう】
手を叩いて読むと、何回かな。
それぞれ、2回、3回…5回である。みんなで手を叩いて、確認した。
そしてここからが、本題。
「ちゅうりっぷ」と、黒板に書く。
ちゅうりっぷは、何回手を叩いて読みますか。
次のように、意見が分かれた。
3回 … 6人 4回 … 7人
5回 … 0人 6回 … 13人
その後、代表の子に叩いてもらったり、みんなで叩いたりしたが、結論が出ない。
ここで、ヒントとして、今までの学習を思い出させた。
【ヒント1 「ねっこ」は、何回か。】
最初は、2回と3回の子がいたが、すぐに促音、ちいさい「っ」の特徴を思い出し、全員が3回になった。
(ねっこの「っ」の部分は、無声音だが、拍はある。)
【ヒント2 「おばあさん」は、何回か。】
伸ばす音、長音の復習。よく覚えていた。すんなり5回に決まった。
【ヒント3 「おもちゃ」は、何回か。】
そして、拗音の登場。これは、3回と4回で論争になった。
「お」「も」「ちゃ」の3回と、「お」「も」「ち」「や」の4回。
前者を支持したのが16名で、後者を支持したのは10名。
これも、代表の子に叩いてもらったり、グループで叩いてもらったりしたが、結論は出ない。
「ちゅうりっぷ」もそうですが、子どもたちの論点は、拗音をどう叩くかである。
ここで、メトロノームを登場させる。
音節指導でメトロノームを使うことは、今村裕美氏の実践から学んだ。
(『小学1年生の教え方大事典』P125)
先生、いいものをもってきました。じゃーん!メトロノームです。
これに合わせて、言ってみましょう。
まずは、3回を主張している子たちを立たせ、メトロノームに合わせて言わせる。
「お」「も」「ちゃ」である。
ところが、4回を主張している子たちを立たせて言わせると、「お」「も」「ち」「や」(お餅屋?)となってしまう。
正解は、3回。
小さい「ゃゅょ」は、小さい「っ」と違い、前の字にくっついて発音することを押さえた。
子どもたちにここまでやって再度、「ちゅうりっぷ」を問う。
始めは0名だった5回を支持する子が、最も増えた。
この日はあえて正解を告げず、次回のお楽しみとした。
家に帰ってから家族と論争になったという子もいた。
(翌日、正解は5回であることを告げた。)
その2
前時の復習。黒板に【きゃべつ】と書く。
手を叩いて読むと、何回でしょう。
前日の学習から、「きゃ」「べ」「つ」の3回であることを確認した。
3つの音がある。ここから、「きゃ」だけを取り出す。
「きゃ」のお母さんは、誰ですか。
ひらがなマンションを見せながら尋ねる。
「わかった子は、先生にこっそり教えてね」と耳をそばだてて始めは聞いた。
始めに発言した子の意見に流されないようにするためである。
予想通り、子どもたちの意見が分かれた。
「あ」 … 22人 「い」 … 4人
「きゃああああ」と伸ばして、声に出してごらん。
「あ」の音が残ります。お母さん(母音)は、「あ」です。
なぜ、子どもたちの中に「い」と間違えた子がいたのか。
五十音表で見ると、「き」のとなりは、「い」。
通常の長音の時は、同じ列に、お母さん(母音)があった。
だから、同様に考えて「い」と考える子がいる。
ひらがなマンションに、「き」から「あ」への曲がった矢印を書いて、説明した。
こんなふうに、音がねじれていますね。
このような音を、「ねじれた音」と言います。
ねじれた音を書くときは、小さい「ゃ」「ゅ」「ょ」を使います。
小さい「ゃ」「ゅ」「ょ」は、覚えやすいように、「ゃゅょ3兄弟」と名付けた。
拗音の「拗」という字は、「曲がりくねった」という意味がある。
拗音は、もともと日本にはなかった音。
(「きゃ」「きゅ」「きょ」というような音が、日本に存在しなかった。)
平安時代に中国から、「者」「病」「良」などという漢字とともに渡来した。
これらの新奇な音に、当時の日本人は、とりあえず「者」(サ)「病」(バウ)「良」(ロウ)という似ている表記で対応した。
わたしたち、日本人の祖先は、これら新しい音にねじれた感じを受けて、拗音と名付けた。
現代の五十音表を見ても、確かにねじれている。
ねじれた音の確認をしたあと、教科書を読んだり、拗音の音探しをしたり、拗音の言葉集めをしたりして、理解を深めた。
その3
前回、拗音の言葉集めを行ったとき、子どものノートを集めると、次の間違いが書かれていた。
①しゅまい (しゅうまい)
②きょりう (きょうりゅう)
③じょおぎ (じょうぎ)
④じょおろ (じょうろ)
⑤きゅきゅしゃ (きゅうきゅうしゃ)
⑥ごみしゅしゅしゃ (ごみしゅうしゅうしゃ)
いずれも、拗長音と呼ばれる、拗音(きゃ・きゅ・きょ等)と長音(伸ばす音)の組み合わせだ。
子どもにとっては、難易度が高い。最も複雑なひらがな表記である。
教科書では、この拗長音を特別に取り上げたページがなかった。
拗音の学習と一緒に、「ぎょうれつ」「しょうてんがい」「きょうしつ」の3例が掲載されていただけ。
これでは、練習量が足りない。
一度きちんと取り上げて、授業を行った。
始業のチャイムが鳴ると同時に、黒板に絵を描く。
子どもたちは、「なんだ、なんだ?」と興味津々。
描いたのは、人魚の絵。
そして、【にんぎょ】と黒板に書く。
この人魚、「あいうえお」のお母さんの中から、あるお母さんが来ると、別のものに変わってしまいます。
何に変わってしまうでしょう?
子どもたちは、すぐに「人形(にんぎょう)」だと気付いた。
黒板に人形の絵を描いた。
どのお母さんがくると、人形に変わりますか?
数名「お」のお母さんだと発言した子がいたが、ほとんどの子が、「う」のお母さんだと言った。
その声を無視して、わざと間違えて黒板へ次のように書く。
【にんぎょお】
子どもたちから、違う違うのコール。
「ぎょ」を伸ばしているのに、なぜ、【お】のお母さんではないのか。
その理由を、ある子どもが次のように説明してくれた。
「【お】の呪文の中に、入っていない言葉なので、【お】のお母さんは来ないからです。」
【お】の呪文とは、長音の学習のときに教えた
「とおくの おおきな こおりのうえを おおくの おおかみ とおずつ とおった」
である。
この呪文は、暗誦テストの課題にしていたので、ほとんどの子が暗誦できた。
×【にんぎょお】 → ○【にんぎょう】
であることを確認する。
その後、最初に上げた6つの言葉を正しく書けるかどうか、改めてノートに書かせた。
①しゅまい →
②きょりう →
③じょおぎ →
④じょおろ →
⑤きゅきゅしゃ →
⑥ごみしゅしゅしゃ →
①~④までは順調だったが、⑤~⑥は、間違える子もいた。
特に、⑥は、最後まで苦戦する子が3名いた。
「ごみしゅうしゅうしゃ」は、手で叩くと、「ご」「み」「しゅ」「う」「しゅ」「う」「しゃ」の7回。
7つの音節でできていることを確認して、なんとか書くことができた。
完璧に書けるようになるまでには、まだまだ練習が必要。
継続して指導していく。