「物語を書こう」実践記録
光村図書5年の書くこと教材「一まいの写真から」の実践記録。
教材研究
この単元での学習内容の柱は、二つある。
第一に、構成を立てて書くこと。
第二に、表現を工夫すること。
【構成について】
一般的には、起承転結という構成の仕方が有名である。
しかし、アメリカのベストセラー作家、ディーン・R. クーンツ氏は過去に成功した小説の大多数は、次の4段階になっていると分析した。
①今まさに困難に遭遇している(しようとしている)主人公。
②困難を乗り越えようと努力するが、さらに状況が悪化。
③考えられないほどの困難に巻き込まれ、最悪の事態へ。
④困難な状況を乗り越えた主人公は、何かを学びとり、成長をする。
また、次のようにも述べている。
「小説が成功するか否かは、プロットと登場人物の性格描写にかかっているとわたしはかたく信じている。」
(『ベストセラー小説の書き方 』より)
物語の核になるプロットと登場人物の設定。
どちらを先に考えさせるべきか。
これは、両方あり得る。
作家が小説を書くとき、まずプロットから考えるタイプと、
魅力的な登場人物が先に思い浮び、そのキャラクターからプロットを考えていくタイプがあるという。
以前は、登場人物のディティールを先に考えさせ、そこから物語を構想させていく手法をとっていた。
しかし、プロットと登場人物、両者が絡み合い、同時に物語が作られていくのが自然であると考えた。
ふだんはワークシートを使わずノートで指導をするが、今回はワークシートがあった方がよいと判断。
両者を同時に指導できるワークシートを作成した。
【物語のプロットを立てよう】(基本構成)
①今まさに困難に遭遇している(しようとしている)主人公。
②困難を乗り越えようと努力するが、さらに状況が悪化。
③考えられないほどの困難に巻き込まれ、最悪の事態へ。
④困難な状況を乗り越えた主人公は、何かを学びとり、成長をする。
【登場人物のプロフィールをつくろう】
① 名 前
② 年 齢
③ 性 格
④ く せ
⑤ 得意なこと
⑥ 苦手なこと
⑦ 夢
⑧ 物語での変化
上記の項目が、B4 1枚のシートで書き込めるようにした。
プロットも登場人物も俯瞰しながら、全体を構想していくことができる。
基本構成は、いわゆる起承転結の構成はやめた。
ディーン・R. クーンツ氏が分析した「小説の古典的プロットのパターン」をもとにした。
最初から主人公が困難に陥っている(これから陥る)場面から入った方がよい。
また、登場人物のプロフィールでは「物語での変化」という項目を入れた。
これによって、主題を意識できるようになると考えた。
【表現の工夫について】
まず第一に重要なのは、書き出しの工夫である。
ディーン・R. クーンツ氏も次のように述べる。
「もしも出だしで読者の心をつかむことができなかったとしたら、第1章の終わりまで読者を引っ張っていくことさえできないだろう。」
図書室で1時間、書き出しを調べる時間を設定する。
また、4月から学習してきた
「リアルな描写」
「気持ちを登場人物の行動や情景で表現すること」
「会話文を入れること」
「レトリック(比喩、擬人法、倒置法、体言止め、反復法、擬音語、擬態語など)」
などの表現の工夫をざっと確認した。
1時間目
1.写真選び。
教科書の写真を選択する。
ただし、人間がいた方が、物語が作りやすい。
基本は、年齢が違う男の子二人が写ったものとする。
(どうしても他の写真がよい子は、複数の登場人物を出すことと、より難しく高度な作文になることを条件に認めた。)
2.主人公の困難な場面を考えさせる。
ワークシートを配付。
「今まさに困難に遭遇している(しようとしている)主人公を考えなさい。そして、【物語のプロットを立てよう】の①に書きなさい。」
書けた子は、黒板に出て板書させた。
・家出をする
・迷子になる
・子どもだけでおばあちゃんの家に行く
・お金を落とす
・乗る電車を間違える
・ホームと電車の間に落ちる
などのアイデアが出された。これで、アイデアが出ない子は参考にできる。
3.ワークシートの欄を好きなところから埋める。
「最初のマスが埋まった子は、あとは好きなところから埋めてよいです。
プロットから先に考えたい子は、プロット。
登場人物から先に考えたい子は、登場人物。
どちらでも構いません。」
あとは、机間巡視しながら面白いアイデアを出した子どもたちを褒めていくだけ。
子どもたちは、「見て見て」という感じでプリントをもってきた。
全員が時間内にプロットを立てることができた。
登場人物でマスが埋まっていない子がいたが、それは宿題とした。
「家でゆっくり楽しい設定を考えてきなさい」
「新しいアイデアを思いついたら、どんどん変更して構わない」と告げた。
クラス全体が「早く書きたい!」という雰囲気になった。
2時間目
ディーン・R. クーンツ氏は、『ベストセラー小説の書き方』で、次のように述べている。
【最初の3ページが勝負】
新人作家の99パーセントが小説の書き出しで同じあやまちを犯している。
それも絶対に許されないあやまちだ。
彼らは小説をはじめるにあたって、主人公を過酷な困難にほうりこもうとしないのである。
もしも出だしで読者の心をつかむことができなかったとしたら、
第1章の終わりまで読者を引っ張っていくことさえできないだろう。
書き出しの指導は、何度か行ってきた。
例えば、次のような書き出しがある。
①「会話」 から始める。
②「音」 から始める。
③「動作」 から始める。
④「様子」 から始める。
⑤「気持ち」 から始める。
⑥「思ったこと」 から始める。
今回は、次の指導を行った。
「作家が最も考えて書くのは、物語の書き出しです。
なぜなら、書き出しが魅力的でなかったら、そのあと、読んでもらえない。
本を買ってもらえないのです。だから、読者を引き込むような工夫を、必ずしています。」
「今から、図書室に行って、いろいろな本の書き出しがどうなっているかを調べます。」
「魅力的な書き出し、参考にしたい書き出しがあったら、ノートに書いておきなさい。」
図書室で1時間、書き出しを調べる時間を設定した。
3~6時間目
最初に、
【物語を書くときのポイント】を5つ確認した。
(3番目のワークシート参照。)
①読み手をひき付ける書き出しの工夫をしよう。
プロの作家がどのような書き出しをしているか。
図書室の本から、調べよう。
②リアルな描写をしよう。
日常生活での観察や調査によって、
本当の話であるかのような現実感を出そう。
③気持ちを登場人物の行動や情景で表現しよう。
(例)
うれしい気持ち→飛び上がった
くやしい気持ち→下をむいた。
すがすがしい気持ち→太陽の光を受け、きらきらを輝いていた。
④会話文を入れよう。
登場人物が生き生きとするような台詞を入れよう。
⑤効果的な場所で、レトリックを使ってみよう。
比喩、擬人法、倒置法、体言止め、反復法、擬音語、擬態語など、
今まで学習したレトリックを使ってみよう。
その後、しーんとした状態で子どもたちは執筆を開始。
子どもが作文を書いている間、教師は教卓で待っている。
原稿用紙半分程度書いたら、見せに来るように指示。
持ってきたら数秒見て、よいところを褒める。
直すべきところがあれば、直させる。
直すことの多くは、形式的な問題。(段落や会話文の一字下げ等。)
指導するのは一人数秒なので、列はできない。
(時間がかかりそうな子は待たせておき、時間が空いたら見る。それでも、30秒以内というイメージ。)
今回、一番多く行った指導は、
会話文の後に、「~と言いました」「~と言った」という文が続くと低学年の作文っぽくなるということ。
極力、これらの表現を使わないように伝えた。
執筆に使った時間は、4時間。(漢字スキル等を含む。)
足りない子は、家で書いてもよいことにした。
原稿用紙、平均7~8枚程度。
多い子でも10枚程度。
あまり長い話は、要求しない。
それよりも、自分が構成したとおりに物語を書くことができることを重視する。
作文が苦手な子も含めて全員が、自分が当初構成した形を生かして物語を書くことができた。