「ありの行列」 実践記録
光村図書3年の説明文教材、「ありの行列」の実践記録(旧教科書での実践)です。
令和2年度版教科書に対応した指導計画も加えました。
その1
この説明文教材で、子どもたちは何を学ぶのか。
「ありの生態」について知ることが目標ではない。
学習指導要領の目標と内容を念頭に指導計画を立てる。
説明文教材では、 段落相互の関係、全体構造に着目せることが特に大切だ。
スタンダードな説明文は、次のような構造になっている。
・問題提起(作者が、疑問に思っていること)
・事例 (結論を証明するための実験、観察、取材など)
・結論 (まとめ)
小学校の説明文教材は、(教材に限らずすべての説明文は)わかりやすい形で書かれるべきだが、実際そうでない説明文教材も存在する。
しかし、「ありの行列」は、構造がしっかりしているので、文章構造の学習をするのに適している。
子どもたちには、次のような流れで授業をした。
1.物語文と説明文の区別。
(1~2年生で学習した教材を例に。)
2.「ありの行列」は、全部で何段落あるか。(9段落)
3.説明文には、読者に問題を出している段落がある。
「問いの段落」と言う。それは、何段落か。(1段落)
4.問いの段落の中に、問いの文がある。それは、どの文か。
(それなのに、なぜ、ありの行列ができるのでしょうか。)
5.問いの文だとわかる証拠、ひらがな一文字は何か。(か)
例:何才ですか。好きな食べ物は何ですか。何才で結婚したいですか。
6.問いがあったら答えがある。「答えの段落」は、何段落か。(9段落)
7.答えの文は、何か。
(このように、においをたどって、えさの所へ行ったり、巣に帰ったりす るので、ありの行列ができるというわけです。)
まとめると、以下のようになる。
【問い】 それなのに、なぜ、ありの行列ができるのでしょうか。
↓
【答え】 このように、においをたどって、えさの所へ行ったり、巣に
帰ったりするので、ありの行列ができるというわけです。
問いの文にある指示語(それ)をもう少し詳しくすると、
【ありは、ものがよく見えないのに、なぜ、ありの行列ができるのでしょうか。】
となる。
そして、②~⑧段落には答えを導くための例示(実験・観察)が書かれている。
このような文章の型を知っておくと、これから他の説明文を読んだり自分で書いたりするときに、役に立つ。
※平成21年度までの「ありの行列」には、以下の第10段落が存在していた。
このえきのにおいは、ありのしゅるいによってちがうことも分かりました。それで、ちがったしゅるいのありの道しるべが交わっても、けっしてまようことがなく、行列がつづいていくのです。
この文章の問いの文は、ありの行列ができるわけを聞いているのに、ありの道しるべが交わってもありが迷わない理由が書かれている。
この段落だけ浮いている。
そのため、22年度からの教科書では、カットされたのだろう。
その2
学習指導要領には次のような内容も書かれている。
【目的や必要に応じて、文章の要点や細かい点に注意しながら読み、文章 などを引用したり、要約したりすること。】
先にも述べたが、「ありの行列」の学習は、ありの生態を知ることが目的ではない。
説明文教材として、上記の内容のような学習をすることが目的である。
しかし、3年生の子どもたちに、いきなり「文章を要約しなさい」というのは、ハードルが高い。
(大人だって難しい。)
そこで、要約の前段階の学習として、「トピックセンテンス」を探すことを課題にした。
トピックセンテンスとは、段落の主張を一口に、概論的に述べた文のことである。
(子どもたちには、「段落の中で一番大切な文のこと」と教えた。)
トピックセンテンスを探すだけなら、要約よりも簡単だ。
1段落のトピックセンテンスは、どれですか。
2段落のトピックセンテンスは、どれですか。
1段落には4つの文があるが、ほとんどの子が正しく指摘できた。
前の時間に、1段落に問いの文があることをやっていたからだ。
【それなのに、なぜ、ありの行列ができるのでしょうか。】
2段落には、次の2つの文がある。
①アメリカに、ウイルソンという学者がいます。
②この人は、次のような実験をして、ありの様子を観察しました。
子どもたちの意見は分かれたが、②を支持する子どもたちが多かった。
ウイルソンという学者がいたことが重要なのではなく、実験・観察をしたことが重要である。
次の3段落、4段落は、文量が多いので、次のような手順で進めた。
1.トピックセンテンスだと思う文に線を引く。
2.となりの友だちと線を引いた箇所を見せ合う。
3.二人とも同じだったら、先生へ見せに行く。
4.二人の意見が違ったら、話し合って決める。
3段落は、実験の考察が最後に書いてあるので見つけやすく、子どもたちはすぐにクリアした。
4段落は、迷う。明確にまとめが書いていないからだ。
しかし、ありの行列ができる理由に関する重要なヒントが書かれている。
【すると、ありの行列は、石のところでみだれて、ちりぢりになってしまいました。】
しばらく時間がかかったが、全員がクリアできた。
5段落は、1文しかないので、それがそのままトピックセンテンス。
ここまでで、トピックセンテンス1時間分の授業。
まとめとして、1~5段落のトピックセンテンスをつなげて読んでもらった。
それだけで文章の概略がつかめることがわかる。
トピックセンテンスということが、何となくつかめてきた段階。
次の時間は、残りの段落を使って、話し合いを行う。
その3
6段落のトピックセンテンスの検討。
6段落には、次の3つの文がある。そのうち次の二つに子どもたちの意見が分かれた。
A すると、ありは、おしりのところから、とくべつのえきを出すことが分かりました。(18名)
B それは、においのある、じょうはつしやすいえきです。(9名)
厳密に言えば、この段落はトピックセンテンスを一つに絞ることが、難しい段落である。
2文とも大切な文だ。筆者も、厳格にトピックセンテンスを意識して書いているわけではないので、このようなことはある。
しかし、あえてどちらが大切かを問うとしたらどちらの文が重要か。
こういったことを考えることで、思考力が鍛えられる。
ノートに自分の考えを書いてもらったあと、全体で話し合いをした。
A,Bどちらの意見にしても、自分なりの根拠をもとに自分の考えを伝えられることが重要だ。
単にAかBの正解を見つけるだけでなく、自分の考えを構築していくこと、友達の意見を聞きながら自分の考えを深めていくことを大切にしていきたい。
そのための話し合いである。
3年生段階では、自分なりの根拠がもてればどちらでもかまわないと考えるが、話し合いの最後に教師の考えは伝えた。
「A、Bそれぞれの文で、一番大事な言葉(キーワード)は何ですか。」
Aは「とくべつのえき」、Bは「におい」だと子どもたちは答えた。
「この文章は、ありの行列について書かれています。ありの行列ができるポイントは、とくべつのえきにあるのですか。それともにおいにあるのですか。」
子どもたちの多くは、Bであると納得した。
このような学習をすると、次の時間に生きてくる。
8段落の検討をしたときのこと。意見は、次の3つに分かれた。
A はたらきありは、えさを見つけると、道しるべとして、地面にこのえきをつけながら帰るのです。(13名)
B ほかのありたちは、そのにおいをかいで、においにそって歩いていきます。(4名)
C そのため、えさが多いほど、においが強くなります。(10名)
前の時間と同じように、理由をノートに書かせた。
次のような意見を書いてくる子がいた。
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8段落のトピックセンテンスは、『他のありたちは、そのにおいをかいで、においにそって歩いていきます。』だと考えます。 なぜなら、ウイルソンの予想があたって、行列がどうやってできるかの結果だからです。
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8段落のトピックセンテンスは、『他のありたちは、そのにおいをかいで、においにそって歩いていきます。』だと考えます。 なぜなら、行列のできるお話だから、ほかのはたらきありたちは、そのにおいをかいで、においにそって歩いていきます、だと思いました。 それは、においがあるから行列ができるからです。においのことと行列の話だからです。
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きちんと文章全体をつかみながら、要点を押さえている。
また、話し合いの途中、友達の意見を聞いて、それに関して上手に質問ができた子がいた。
話し合いの仕方も少しずつレベルアップさせていき、討論ができるようになる学級を目指していく。
※子どもたちと押さえたトピックセンテンス
①それなのに、なぜ、ありの行列ができるのでしょうか。
②この人は、次のような実験をして、ありの様子をかんさつしました。
③ふしぎなことに、その行列は、はじめのありが巣に帰るときに通った道すじから、外れていないのです。
④すると、ありの行列は、石のところでみだれて、ちりぢりになってしまいました。
⑤これらのかんさつから、ウイルソンは、はたらきありが地面に何か道しるべになるものをつけておいたのではないか、と考えました。
⑥それは、においのある、じょうはつしやすいえきです。
⑦この研究から、ウイルソンは、ありの行列のできるわけを知ることができました。
⑧ほかのはたらきありたちは、そのにおいをかいで、においにそって歩いていきます。
⑨このように、においをたどって、えさの所へ行ったり、巣に帰ったりするので、ありの行列ができるというわけです。
令和2年度版教科書対応の指導計画
■1時間目 ・・・ 初発の感想
教科書に提示されている言語活動のゴールは、感想文を書いて友達と読み合うこと。
段落、文章構成、要約といった説明文指『導に加え、感想をもたせる指導が重要となる。
子どもの感想が最も生き生きとするのは、初めて教材と接するときだ。
1時間目に、感想を膨らませる指導を充実させたい。
教材を読む前に、次の指示を出しておく。
引きつけられたと思ったところ、興味をもったところに線を引きながら読みましょう。
その後、黙読、読み聞かせをする。
なぜ、そこに線を引いたのか、友達に話しましょう。
隣の人や班の人等、いろいろな人と話をさせる。
考えたことをノートに書いておきましょう。
単元の最後にまとめる感想の下地をノートに書いておく。
■2時間目 ・・・ 音読&辞書引き
より深い読解のためにという目的で、音読をする。
追い読み、交代読み、リレー読み等、いろいろな方法で音読をする。
語彙を増やす、辞書に慣れ親しむ目的で、辞書引き競争も行う。
■3~4時間目 ・・・ 問いの文、トピックセンテンス
上の「その1」「その2」「その3」の実践を2時間に圧縮して行う。
■5時間目 ・・・ 要約
トピックセンテンスを生かして、要約をする。
できた要約文は、感想文で使う。
■6時間目 ・・・ 感想文を書く
1時間目に書いた初発の感想と、5時間目に書いた要約文を使って、感想文を書く。
教科書の例文を参考にさせる。
■7時間目 ・・・ 感想文を読み合う
自分と同じところ、違うところを見付け、感想を深めたり広げたりする。