いろは歌(高校1年国語 歴史的仮名遣い・五十音図の発展学習)
2010年3月6日、日本言語技術教育学会(高浜第一小学校)における向山洋一氏の模擬授業を追試した。

原実践では「今から60年前、昭和25年。私は旗の台小学校に入学しました。・・・」から始まるが、これは向山洋一氏自身のことなので、追試では省略。
いろは歌は、古くから伝わる教材です。教材があって教育が成り立つのです。神話も教材です。物語も教材です。
日本の歴史の中で最も古くから伝わってきた教材を書きなさい。
原実践は教師相手だから書かせている(しかも三つ以上)。子ども相手なら待たずに答えを出して読ませる。①百人一首②五十音図③あめつちの歌④万葉集⑤いろは歌⑥実語教⑦童子教 など。
いろは歌、何年くらいだと思いますか。(1000年)
五十音図は、どのくらいだと思いますか。(1000年)
両方とも千年です。平安時代です。その次に、実語教と童子教、これは七百年です。
いろは歌で約千年。これは、全体として使われましたが、その前にも教材が二つあります。平安時代です。何と言う?
これも子どもは答えないだろう。すぐに答えを出す。
「安積山(あさかやま)」という歌と、それから「難波津」という歌が使われていました。
教材に使われたことが分かるのは、古今集の「仮名序」に紀貫之が「この二つの歌は、父母のように」と二つあります。
資料または板書
安積香山影さへ見ゆる山の井の浅き心をわが思はなくに
難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今は春べと 咲くやこの花
(古今和歌集 仮名序より)
でもこの二つは、長くは続きませんでした。この後にいろは歌を使います。
難波津の歌といろは歌を比べて、教材としてどこが優れているんでしょうか。書いてごらん。
四十七文字五十音、それがすべて入っているということが優れているんですね。
あめつちの歌もそうです。あれも五十音全部入っているんですけれども、音が重複している部分もあります。いろは歌は全部重複しないで入れている。ですから、いろは歌は長く生活の中に溶け込んでいきました。
生活の中にとけ込んで、今も使われているものがあります。いろはが付く言葉を書いてみてください。
いろはがるた、いろは順、いろは坂など。
忠臣蔵も、「ん」を除いて四十七士である。
「いろは順」が用いられていたのは学校の名簿の他、背番号などもあった。
みんなで読みます。「初午に七千両の手を貰ひ」
この言葉で教育の現場を思い描くことができます。江戸時代です。
ここから考えられる当時の初等教育。どんなことが考えられるのか、箇条書きで書いてみてください。(寺子屋、読み書きそろばん、手習いなど)
手を貰いですから、初等教育の間は手習いです。手習いの後、十四,五くらいになったらなんと言いますか。隣同士で相談します。(見習い)
初午に、二月の最初の時、初午の日、これが学習の出発点だった。手習いをして七千両をもらった。実際のお金はもちろんもらっていません。
これ、何をもらったんでしょう。
文字、七千両分です。一文字千両。七千両もらいました。
七千両、初午の日、最初の始業式、習った言葉は何でしょう。分かった人?(いろはにほへと)
もう一つあります。
板書
初午に牛の角から書き習ひ
これ、手習いです。牛の角からというのは何でしょう。(いろはの「い」。)
入学式のその日に、七つの文字を習ってきた。みんなで読みます。「初午に牛の角から書き習ひ」
たったこの一句から、江戸時代の教育の様子、伝統、そういったことが浮かんでくるわけですね。
いろは歌を書いてみてください。意味が通るように四行にします。
いろはにほへとちりぬるを
わかよたれそつねならむ
うゐのおくやまけふこえて
あさきゆめみしゑいもせす
いろは歌は仏教歌だという主張があります。(悉曇(しったん)輪略図抄)
「いろはにほへとちりぬるを」が諸行無常を表し、「わかよたれそつねならむ」が是生滅法(※ぜしょうめっぽう あらゆるものは常住不変でなく、生滅するのが真理であるということ。)を表すんだ。「うゐのおくやまけふこえて」は生滅々已(※しょうめつめつい 生滅の世界から超脱すること。)を表し、「あさきゆめみしゑいもせす」は、寂滅為楽(※じゃくめついらく 煩悩を脱して悟りの境地に入ってはじめて真の安楽を感じることができるということ。)を表すんだと言うことです。
漢字に直せるところを漢字に直してください。
色は匂へと散りぬるを(濁点付き 色は匂へど散りぬるを)
我が世誰そ常ならむ(濁点付き 我が世誰ぞ常ならむ)
有為の奥山今日越えて
浅き夢見し酔ひもせす(濁点付き 浅き夢見じ酔ひもせず)
「色は匂へと」の部分は、「色葉に匂へと」という説もある。
今度は、平仮名七文字ずつに書いてください。
資料または板書
いろはにほへと
ちりぬるをわか
よたれそつねな
らむうゐのおく
やまけふこえて
あさきゆめみし
ゑひもせす
これはよく小説だとか文学だとかに発展されます。
この中に暗号が隠されています。なんでしょうか。お隣と相談して、分かったら手を挙げます。
一番下の文字だけ読むと、「咎なくて死す」。罪もないのに殺されてしまったという意味です。
これに規定される人物がいます。誰でしょう。二人です。(柿本人麻呂、菅原道真)
ここから先は、科学の世界ではなくて小説その他の世界になりますが、それでも多くの作家がこれをもとにして作品を作っています。
初期の五十音図を出す。
一番古いあいうえおの五十音図です。ぱっと見て、何か変なことに気づきませんか。
「お」と「を」、ヤ行などの順番が違う。
これが初期形です。この時代が何百年も続いて、その途中でこれを直さなくちゃいけないとなります。
一番最後それに決着をつけた有名な学者は誰でしょう。(本居宣長)
五十音図から考えて、日本語の言葉の音はいくつくらいあると思いますか。
五十音じゃないですよ、きゃきゅきょもありますからね。ぱぴぷぺぽもありますよ。
百二十三くらいというふうに、言語学者の金田一春彦氏は言っています。
英語はいくつくらいだと思いますか。
数万と言われています。日本の音と比べて全然違う。したがって、最新テクノロジーで、日本が絶対有利だと言われたテクノロジーがあります。なんでしょう。(音声認識)
最後に「宿題」と言いながら向山洋一氏が告げた内容である。
「ひゃひゅひょ」「みゃみゅみょ」それぞれ、日本の音の一つですから、日本の言葉を三つずつ書いてください。
難しいのは「ひゅ」と「みゅ」である。
ひゅ・・・「ひゅうが」「ひゅうひゅう(風の音)」のみ。
みゅ・・・「大豆生田(おおまみゅうだ 山梨の地名)」のみ。
何千年続いたという文化。その昔からたくさんの人々が努力をしてきた、ということでした。