少年の日の思い出(2020)
【授業時間:5時間】
・初読の感想では「“僕”が反省している」という読み方をする生徒が多い。しかし、丁寧に読むとそれが「思い込み読み」であることが分かる。
・「“僕”は反省しているか」という主発問で、文章に即した正確な読解ができるように指導し、主題につなげる。

第1時 黙読・音読
教科書202ページ。「少年の日の思い出」を黙読します。
読めない字に線を引いておきなさい。全員起立。
長文なので最初は黙読する。
終わったら座って、読めない字をもう一度確認しておきなさい。
全員座ったら読めない字を確認する。
202ページで読めない字があった人?
ページごとに区切って確認していく。あれば読み方を教える。
残り時間、隣同士で交替読みをしなさい。
第2時 意味しらべ
意味が分かりにくい言葉に丸をつけなさい。
最後まで行ったら、言葉をノートに書き出しなさい。
国語辞典で意味を調べてノートに書きなさい。
最後まで終わった人は、作品を読んで思ったことや考えたことをノートに書いておきなさい。
終わらなかった分は宿題にする。
第3時 感想発表
作品を読んで思ったこと、考えたことを発表してもらいます。
全員発表します。指名なしでどうぞ。
・210・16「盗みをしたという気持ちより~」とあって「僕」が後悔していると思った。
・204・2「君の収集をよく見なかった」「恥ずかしいことだが」「けがしてしまった」などとあって、「僕」が後悔していると思う。
・209・16「その瞬間に、僕の良心は目覚めた」「自分は盗みをした、下劣なやつ」とあって、「僕」が後悔してることが分かる。
・214・2「ちょうを一つ一つ取り出し~」とある。これは「僕」が自分の行為を反省してやったのだと思う。
・212・14「それは僕がやったのだ、と言い~」とあって、ちゃんと反省してエーミールに謝りに行っているからえらいと思った。
出た意見のポイントを黒板に短くメモしておく。後で検討するためである。
「僕」が後悔している、あるいは反省している、という意見が多く出ました。
そのことについて確かめてみましょう。
出た意見について、順番に「これは後悔してる?」「これは反省してる?」と確認していく。
すると、「後悔」は読み取れるが、「反省」はしていないのではないか、ということに気づく生徒が出てくる。
次回、「“僕”は反省しているのか?」ということを考えていきます。
第4時 「僕」の「反省」について検討
「僕」は反省しているのか? 根拠を示して意見を書きなさい。
時間を取って書かせる。
立場「僕は反省している/していない」
根拠「○ページ○行目に……と書いてある。」
解釈「これは、……ということだ。」
机間指導しながら、この3点セットで書けるように繰り返し言う。
指名なしで発表します。
【反省していない】派
・210・16「盗みをしたという気持ちより~」とある。反省していない。
・213・3「僕のおもちゃをみんなやる」「ちょうの収集を全部やる」とある。物で解決しようとしているので反省していない。
・213・9「あいつの喉笛に~」とある。この行動は反省していない。
・212・14「僕がやったのだ、と言い、詳しく話し、説明しようと試みた」とある。謝ろうとしていないので反省していない。
・214・2「ちょうを~押しつぶしてしまった」とある。これは八つ当たりをしているだけで、反省していない。
【反省している】派
・211・4「悲しい気持ちで~うちの小さい庭の中で腰かけていた」とある。反省している様子が感じられる。
・211・6「どんな罰を忍ぶことより~つらいことだった」とある。つらいと思っているので反省している。
どちらも根拠がありますね。では、冒頭の「大人の場面」からは何か分かりますか?
しばらく時間を取って考えさせた。
・203・15「もう、結構」と「不愉快」とある。反省している者の態度ではない。
・204・1「彼は微笑して~」とある。反省していたら笑わない。
・204・4「思い出をけがしてしまった」とある。反省しているから「けがした」という言い方をしている。
・204・4「話すのも恥ずかしい」とある。反省できていないから恥ずかしいと思っている。
これも両方の解釈が可能だ。根拠を挙げて説明できていれば良い。
今日の読み取りをふまえて、次回は、「この作品が言いたいこと」について考えます。
第5時 主題
この作品はどんなことを言いたいのか。根拠を示しながら書きなさい。
ある程度書けたら見せに来させてチェックする。
「根拠をもっと詳しく」とか、「“僕”が反省していないことをふまえて」とか、「大人の場面も含めて考えて」など、個別にアドバイスして、さらに長く書かせる。
書けたところまで、班の中で発表し合います。
最後に、書ける人は、まとめとして一文つけ加えます。
「つまり、人間とは~」か「つまり、世の中とは~」のどちらかでまとめの一文を書かせる。
<生徒の作文>
私は本文の「一度起きたことは、もう償いができないものだ」というところから、自分のする一挙一動、一言に責任があるから、その時の思いつきや考えなしの行動で取り返しのつかないことになるということを言いたいのだと思いました。
私は「僕」は反省していないと思います。理由は「僕」はエーミールに対し、説明(言い訳)はしたものの、あやまってはいないし、かわりに「おもちゃ」や「ちょう」をあげるというように物で解決しようとしているからです。また、本文の「一度起きたことは、もう償いができないものだ」というところから、反省はしていなくても、自分の行いに対する後悔は残ることが分かるので、よく考えて行動しなければいけないということを言いたいのだと思います。
つまり、「人間とは、自分が少しでも後悔したことは深く記憶に残る生き物だ」ということだ。
<生徒の作文>
この作品が言いたいことは、「悪事は絶対にしてはいけない」ということだと思いました。わけは、ちょうを盗ってしまったという僕の悪い行いについて、僕はずっと大人になるまでおぼえていたからです。また、エーミールという友達も失っていたし、当時自分のマイブームだったちょうのコレクションも失っています。
このことからさっきの「悪事をしてはいけない」に加えて、「悪事は自分に返ってくる」ということも言っていると思いました。これは、大人になった僕が言っていた(203ページの15行目の)「もう結構。」から、ちょうのコレクションを見ただけで不愉快になってしまうほど、トラウマになっていたことも分かります。
これらのことから、私は悪事をするとそのことについてのトラウマになったり、何かを失ったりすることが分かったので、悪事は絶対にしてはいけないなと思いました。
つまり、人間とは「悪事などのいやな経験をずっと覚えつづけている」ということだと思います。
<生徒の作文>
私は作者がこの作品で言いたかったことは「一度こわれてしまったものは、もう元通りにはならない」ということを言いたかったのかなと思いました。理由は、P123のうしろから4行目に、「そのとき、初めて僕は、一度起きたことは、もう償いのできないものだということを悟った」と書いてあるからです。僕がこわしてしまった物は、もう元通りにはなりません。なんとエーミールにあやまっても、こわれてから後悔し、嘆いても、だからこそ、人の物をぬすんだり、物をらんぼうにあつかったりしてはいけないと思います。
だから、私は、作者が言いたかったことは「一度自分がこわしたものは元通りにはもどらない」と言いたいのかなと思います。
213ページの3行目に書いてある僕が言った「僕のおもちゃをみんなやる」や「自分のちょうの収集を全部やる」という言葉から、物を使ってエーミールに話しに行っても、エーミールは僕を軽蔑していたことにつながると思います。その理由は、こわれた物は元通りにならないから、エーミールのクジャクヤママユも元通りにはならないからです。
つまり「人間とは、失敗をくり返している」ということ。