大平光代さんの生き方から学ぶ 「だから、あなたも生きぬいて」の授業
『だから、あなたも生きぬいて』(大平光代 講談社)をもとに授業を構成した。ねらいは次の2点。・どんなに辛い状況でも、抜け出す方法はいろいろある。・自殺は絶対にしてはいけない。生き抜いていこう。 No.2210293 http://homepage1.nifty.com/87-asai/sub3.htm
原実践:浅井孝信先生 コンテンツ作成:村岡壮一郎

○大平光代さんの子どもの頃の写真を掲示。
この女の子は光代さんと言います。両親やおばあちゃんの愛情を受けて、すくすく育ちました。
小学校では図工と音楽は得意でしたが、ほかの科目は「ふつう」か、「がんばろう」ばかりで、あまり成績はよくありませんでした。
でも、友だちはたくさんいて、楽しく学校に通う、普通の女の子でした。
○大平光代さんの極道の妻の頃の写真を掲示。
何歳に見えますか。16歳なんですよ。お化粧をしていて大人っぽい感じですね。
…実はね。光代さんは暴力団の組長の奥さんになったのです、16才で。
背中には入れ墨があります。観音様にへびの図柄が大きく彫られているそうです。
ふつうの女の子だった光代さんがこんな風に変わってしまったきっかけは、中学校時代にありました。
中学校で何があったのでしょうか。
・いじめ
・先生とけんかをした。先生をなぐった。
・タバコを吸った。
・親とけんかをした。
・両親が亡くなった。
・暴力を受けた。
・かつあげにあった。
・差別された。
・自殺未遂をした。
・誘拐された。
※ほとんどの子が「いじめ」と書いた。
正解は「いじめ」です。
おはようとあいさつしても誰も返事をしてくれません。クラス全員から無視されたのです。
筆箱をまっぷたつに割られました。おばあちゃんからもらった大切なお守りをごみ箱に捨てられました。
机の上にゴミをまかれました。トイレに入っていると、上からバケツ一杯分ほどの水をかけられました。
すさまじいいじめです。
中学2年になってクラス替えがありました。
そのとき、初めて友だちができました。何でも話せる親友が3人もできたのです。
光代さんは嬉しくて嬉しくて、なんでも3人に話したり、相談にのってもらったりしました。
しかし、その3人は光代さんをだまして、友だちのふりをしていただけなのでした。
光代さんは3人に裏切られ、いたずら電話の犯人にさせられてしまいました。
今まで、いじめられ続けてきたことや、親友に裏切られたショックで、光代さんはひどく落ち込みました。
こんな最悪な状況になったら、どうすればいいと思いますか。
・親や先生に相談する。
・転校する。
・自分でなんとかする。
・言い返す。いじめ返す。
・訴える。
・仕返しをする。
・殺す。
・自分を(精神的に)強くする。体を鍛え、力をつける。
・いじめている友だちをぶっとばす。
・悪(ワル)になる。不良になる。暴走族になる。
・引きこもる
・ボディガードをやとう
※「自殺する」は子どもたちから出なかった。
○割腹自殺を報じる新聞記事のコピーを掲示。
光代さんが、この最悪な状況から抜け出すためにとった行動は自殺でした。
「割腹自殺」です。ナイフでお腹を切って自殺しようとしたのです。
遺書には自分の血でいじめた人の名前を書きました。そうすれば、いじめた人への復讐になると思ったのです。
しかし、死ぬことはできませんでした。
光代さんは死ねずに苦しんでいるところを通りかかった人に発見され、救急車で運ばれ、手当を受けました。
光代さんは病院に入院した後、また学校に行くことになりました。
中学校三年生の四月。新しいクラスでのスタートです。
クラスのみんなは光代さんがいじめを苦にして自殺未遂したことを知っています。
光代さんをどのように迎えてくれたでしょうか。次の中から選んでみてください。
1.「今までのことを反省し、温かく迎えてくれた。」
2.「反省などせず、今までと同じ冷たい態度で迎えた。」
3.「その他」
○どれを選んだか、挙手をさせる。
正解は残念ながら「冷たい態度で迎えた。2番。」でした。温かく迎えてくれる人などいないのです。
あるときは「あんな、死にぞこない、相手にしたないわ」と陰で言われているのを聞きました。
「死にぞこない」というのは、「死ぬべきだったのに、生き残ってしまった人」という意味です。
それを聞いて、光代さんは「もう、ここには私の居場所はない」と思ったそうです。
光代さんはそれから、学校には行かずゲームセンターに出入りするようになりました。
暴走族と友だちになり、家にも帰らず不良の友だちの家に泊まるようになります。
両親に暴力もふるうようになりました。
そして、16歳で暴力団の組長と結婚します。17歳の時には、背中に入れ墨をいれます。
光代さんは未成年だったので、入れ墨を入れるために親のはんこが必要でした。
親がはんこを押してくれないので、お父さんを蹴り倒し、自分ではんこを押して、入れ墨をいれたのです。
その後、暴力団でもうまくいかず、組長と離婚し、「生きていてもしょーがない」と愚痴りながら、お酒を飲んで、荒れた生活を送るようになってしまいます。
しかし、あることをきっかけにして、光代さんは人生をやり直そうと決心しました。
では、「あること」とはいったいなんでしょうか。
・誰かに励まされた。
※子どもたちは考えあぐねてしまい、後は何も出なかった。
<予想していた反応>
・親友ができた
・すばらしい人に出会って、自分もああなりたいと思った。
正解は「光代さんのことを心から思い、心配してくれる人と出会ったこと。」です。
その方は光代さんのお父さんの友人の大平浩三郎さんです。光代さんが22歳のときに、偶然出会いました。
大平さんは光代さんを見て、なんとか立ち直らせたいと思い、何度も会って話をしました。
光代さんは初めのうちは心を開かず、「いっつも説教ばかりしやがって…」と思っていました。
しかし、何回も何回も大平さんが来て、一生懸命話をするので、だんだんと心を開くようになって行きました。
そして、あるとき、こんなことがありました。
○<資料1>を配布。読み上げる。
資料1
『だからあなたも生きぬいて』のP.132~137を抜粋し、印刷して配布した。
「そんなある日、喫茶店で・・そして泣き崩れた。 (中略) <思い通りにならへんのを・・・私は、それをしっかりとつかんだ。」の部分である。
<要旨>
大平のおっちゃんに一喝され、目が覚める。もう一度人生をやり直してみようと決意する。
人生をやり直そうと決意した光代さんでしたが、過去のことでどうしても忘れることができず、もやもやしていることがありました。
それは、中学生のときにいじめられたことです。そのときの恨みは簡単に消すことはできませんでした。
光代さんがそのことを話すと、大平さんは次のようにアドバイスをしてくれました。
○<資料2>を配布。読み上げる。
資料2
『だからあなたも生きぬいて』のP.140~141を抜粋し、印刷して配布した。
「私は、中学生のときにいじめられたということが、・・・今までの人生を取り返すかのように、勉強を始めた。」の部分である。
<要旨>
光代さんは、おっちゃんから、「自分が立ち直ることが、いじめた子への復讐になるのだ。」と諭される。
資格取得を目標に勉強を始めた。
こうして、光代さんはいじめられたことの復讐をはたすために、自分が立ち直り、資格を身につけることにしました。
はじめに光代さんは「宅建」という家や建物の取引をする資格を取ることにしました。勉強は大変でした。
最初は参考書に書いてある漢字が読めませんでした。読み方がわかっても、意味がわかりませんでした。
それで、一つひとつ辞書で調べながら参考書を読んで、勉強しました。
途中くじけそうになりながらも、勉強を続けて、ついに宅建の試験に一回で合格することができました。
さて、大平さんの励ましを受けながら立ち直っていった光代さんですが、今、どんな職業についていると思いますか。
・大工さん
・先生
・警察官
・カウンセラー
・弁護士
○ビデオ(約3分)を見せる。(徹子の部屋2002年放送)
○大平光代さんの現在の写真を掲示。
光代さんは弁護士になりました。弁護士とは裁判などで訴えられた人の側にたって、弁護をして、応援する法律のプロです。
弁護士になるためには司法試験に合格しなければなりません。
ビデオでも言われていましたが、この試験は日本で一番難しい試験と言われています。
東大や早稲田、慶応といった日本のトップレベルの大学生が受験してもなかなか合格できません。
100人受けて、合格できるのは2,3人ぐらいです。
漢字が読めなくて辞書を引いていた光代さんが、司法試験に一発で合格し、弁護士になることができたのです。
今は主に非行少年に関係する仕事を受けて、立ち直れるように援助をしているそうです。
みなさんにも、つらいこと、苦しいこと、悲しいこと、たくさんあるでしょう。そんなときは、まわりを見てください。
あなたのことを心から思い、心配してくれる人がきっといます。勇気を出して、その人に相談してみてください。
きっと、いい解決方法が見つかります。だから、自殺だけはしないでください。死んでしまったら、人生のやり直しはできないのです。
私は、みなさんがつらいことも、苦しいことも乗り越えて、たくましく生きていってくれることを心から願っています。
今日の授業の感想や学んだことを書いてください。
※最後に、光代さんは大平浩三郎さんの養子になり、大平光代となったことを子どもたちに話した。
<掲示資料>(すべて、著書の中の写真を拡大コピーした。)
・光代さんの子どもの頃の写真、極道の妻の頃の写真、現在の写真。
・自殺の新聞記事