長音の授業
1年生ひらがな指導、長音の授業の教材研究と実践記録。
教材研究
【問題】ケーキをひらがな表記すると、どうなるか。
①けーき ②けえき ③けいき
長音には、内閣から告示れた厳密なルールが存在する。
昭和61年7月、告示された現代仮名遣いのルールである。
①ア列の長音は、ア列の仮名に「あ」を添える。
(例:おかあさん・おばあさん)
②イ列の長音は、イ列の仮名に「い」を添える。
(例:にいさん・おじいさん)
③ウ列の長音は、ウ列の仮名に「う」を添える。
(例:くうき・ふうせん)
④エ列の長音は、エ列の仮名に「え」を添える。
(例:ねえさん)
⑤オ列の長音は、オ列の仮名に「う」を添える。
(例:おとうさん・おはよう)
①~③のルールは、覚えやすい。しかし、④と⑤が問題だ。
④の例として、「ねえさん」が挙げられてるが、きちんとした単語での活用例は、実はこれだけ。
あとは以下のように、全て例外である。
・せんせい ・せんべい ・えいが ・とけい ・げいむ など…
つまり、内閣から示されているルールは原則と例外を逆にして、本当は次のようにするのが現実的なのだ。
④エ列の長音は、エ列の仮名に「い」を添える。
そして、⑤も問題だ。こちらは、例外が22個もある。
おおかみ おおせ おおやけ こおり こおろぎ ほお
ほおづき ほのお とお(十) いきどおる おおう
しおおせる とおる とどこおる しおおせる とおる もよおす
いとおしい おおい おおきい とおい おおむね おおよそ
なぜ、このような例外が生まれたのか。
それは、戦前に「オ」の発音で使われていた「ほ」と「を」を、「お」と表記することにしたからだ。
(例:こほり おほかみ おほきい とほる とを など)
この22個の例外、現代人のわたしたちには、丸暗記するしか見分ける術がない。
教育科学研究会の須田清氏は、子どもが覚えやすいように、次のような文を作った。
①遠くの(とおくの) ②大きな(おおきな) ③氷の上を(こおり)
④多くの(おおくの) ⑤狼(おおかみ) ⑥十ずつ(とお)
⑦通った(とおった)
これらややこしい長音を1年生相手にどう授業するか。
もちろん、すべての内容は扱えないが、楽しく授業したい。
第1時
※この時間までに、母音について触れておく。
「先生ね、今日はいいもの持ってきたんだ。」
「何が出てくるでしょう。」
リュックの中から、インスタントラーメンを取り出す。
子どもたちは、ラーメン登場に喜ぶ。
「これを黒板に書いてみるよ。」
らめん
子どもたちから「違う違う」の声。
「ー」を付けなくてはいけないと言う。
実はね、ひらがなで書くときには、伸ばす記号「ー」を使えないんだ。
さて、どうしたらいいだろう。
子どもたちの中に「あ」を付ければよいと反応する子がいた。
「ら」は、一人では「ラー」にならないからお母さんを呼びます。
「ら」のお母さんは、誰でしたか?
そう、「ら」のお母さんは、「あ」でしたね。
伸ばす音にするときには、お母さんに手伝ってもらいます。
五十音表の授業でやった、ひらがなの「お母さん」「子ども」たちの学習を思い出させる。
子どもたちは、よく覚えていた。
らめん → らあめん
インターネットで「らあめん」と書かれたラーメン屋の看板の画像をいくつか見つけてきて、子どもたちに見せた。
その後、手を叩いて読ませる。
「らめん」は3拍、「らあめん」は4拍で、伸びている音であることを確認する。
続いて、リュックの中から「チーズ」を取り出す。
「ち」のお母さんは、だれですか。
【 ちず → ちいず 】
次は、「ふうせん」を取り出す。う段の長音も同様に進める。
「ふ」のお母さんは、だれですか。
【 ふせん → ふうせん 】
問題はえ段である。ここで登場させたのは、「煎餅」。
流れから言えば、次は「え」のお母さんが出てくる。
「せんべえ」か。「せんべい」か。子どもたちを揺さぶる。
実はね…。「え」のお母さんは、いつも遠くに出かけてしまっていて、家にいないんだ。
だからね。「え」のお母さんの代わりに、「い」のお母さんが助けに
来てくれるんだよ。
【 せんべ → せんべい 】
えの長音は、「い」を添えるという、内閣告示では例外として扱っているものを先に教える。
他は全て「い」だからだ。
「え」のお母さんは、もう帰ってこないのかな。
来るという子と、来ないという子がいる。
実は、一つだけ、帰ってくる言葉がある。「おねえさん」である。
『おねえさん』は、とっても甘えん坊なんだ。
いつも、『ねえ』『ねえ』おかあさーんって言って、泣いている。
だからね…。『おねえさん』に呼ばれたときだけ、「え」のお母さんは、帰ってくるんだ。
「お」の長音は扱わずに、いったんストップ。
このあと、長音の言葉集めを行った。
3つ書けた子に、黒板へ一つ書かせた。
言葉集めをしている途中で、【お】の長音の言葉がいくつか出てきた。
「〈ろうそく〉と〈ろおそく〉、〈こうり〉と〈こおり〉。どちらでしょう?」
「【お】のお母さんは、来てくれるのでしょうか?」
「これについては、次の時間!お楽しみに!」
※「え」の長音の説明は、須田清氏『かな文字の教え方』の追試。
第2時
「ろうそく」と「ろおそく」。
「こうり」と「こおり」。
どちらが正しいのか、前の日に問題になった。
(家で聞いてきた子もいた。)
答えを言う前に、まずは、前の時間の復習から入った。
「伸ばす音はどれですか。」「お母さんを呼んで、正しく書きましょう。」
①ぎた → ぎたあ
②ぴまん → ぴいまん
③すじ → すうじ
答えをノートに書かせていった。
ここまでは、順調。
「あ」のお母さんだ!というようなつぶやきも聞こえた。
前日までの学習をよく覚えている。
④せんせ →
ここで、「せんせえ」と「せんせい」に意見が分かれた。
「『え』のお母さんは、お出かけしているんだよ。」
前回の授業をしっかり覚えていた子がこう発言した。
いよいよ【お】の長音である。
弁当箱の写真をスライドで映し、「べんと」と書く。
「と」を伸ばしたいとき、どのお母さんが助けに来てくれるでしょう。
「お」のお母さんと、「う」のお母さんに意見が分かれた。
じつは、「お」のお母さんも、遠くに出かけてしまうのです。
代わりに、「う」のお母さんが、助けに来てくれます。
【 べんと → べんとう 】
「え」のお母さんが帰ってくる言葉は、一つだけあったね。
「おねえさん」です。
じゃあ、『お』のお母さんが帰ってくる言葉って、あると思う?
子どもたちの反応は、「ある」「ない」に分かれた。
「お」のお母さんが帰ってくる、秘密の呪文を教えます。
①とおくの ②おおきな ③こおりのうえを ④おおくの
⑤おおかみ ⑥とおずつ ⑦とおった
スライドで、イメージを投影しながら、唱える練習をした。
(この呪文は、学級で行っている暗唱テストの課題にした。)
「この言葉が出てきたときには、『お』のお母さんが帰ってくるんだ。」
その後、いくつか練習問題を行った。
・大きい → 「おおきい」「おうきい」
・王さま → 「おおさま」「おうさま」
・道路 → 「どおろ」 「どうろ」 など。
2日間の授業だけで、複雑な長音のルールは定着しない。
繰り返し、指導していく。