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子どものやる気を引き出す言葉がけ(低学年)

私が担任したクラスで、やんちゃな男の子A君がいた。
宿題の字は読めないほど雑。
音読では、読もうとしない。
片付けができない。
注意すると「うるせぇ」と暴言を吐いたり、暴力をふるったりする。
A君の対応について岡山で開かれているスキルアップ講座で、平山諭氏に教えてもらった。
その言葉がけをを紹介する。

1 セロトニン5を実践する

セロトニン5とは、次の5つのことをいう。

見つめる ほほ笑む 話しかける ほめる 触れる

子どもが安心し、自尊感情が高まる対応である。
平山氏は、子どもが安定する言葉がけを、何種類も提唱している。

①「そうなんだ」「そう」を使う。

A君が否定語を使った時、「そんなことを言ってはいけません」と言い返していた。
これを、
「めんどくせぇ」「そう」 
「やりたくねぇ」「そう」
と、言うようにした。
私の返しに対して、反抗することはなくなった。
これは、「そう」が、事実を認める言葉がけであるためだと考える。
平山氏は、「そ」が付く言葉は相手の心を傷つけない、と言う。
私はこれまで、否定語や注意によって自ら、暴言を引き出し、やる気を損なわせていたのだ。

②「すてき」「ばっちり」 短いフレーズで元気よくほめる。

ほめ方に自信がないと、言葉が長く、言い訳っぽくなってしまう。
相手の目を見てしっかりとほめる。
決して遠慮がちにほめてはいけない。
ほめられた子が逆に、恥ずかしい思いをしてしまう。

③「すてきですね、A君」 名前を付けてほめる。

私はほめることが恥ずかしかった。
Aくんを見てほめていなかったのだ。
これでは、A君はほめられた感じがしない。
逆に反抗してしまう。
そこで、名前をつけてほめる実践をした。
特定されるので、ほめ言葉が浮きにくくなった。

④「できるようになったね」 成長や達成を実感できるようにほめる。

平山氏は、次のように言う。

「できない」ではなく「ここまでできた」という見方をする

私はクラス全体を見て、A君のできないことばかり目に入っていた。
相対評価をしていたのだ。
これを、平山氏の言う「絶対評価」にかえようと試みた。
「字が汚い」「音読をしていない」「机の上がきたない」ではなく、「ここまで丁寧に書けたね」「読み方はきれいだったね(声の大きさは別として)」「赤白帽子を片付けたね」と、できたことを評価する。
A君は、これまで「できないこと」を要求され続け,注意されてきたのだ。
A君の中での評価をすることで、成長を促すことができた。

⑤「(集団から離脱している場合)中に入ってくれたらうれしいな」 期待効果を狙ってほめる。

「~しなさい」「~しなければなりません」という命令口調はNGである。
A君は、命令されるのが嫌いであった。
しぶしぶ従うことがあったが、雑になってしまったり、乱暴をしたりしてしまう。
一番効果があったのは、「手伝ってくれるとうれしいな」であった。
授業中、友達にちょっかいを出しそうになったとき、「教科書を見せてくれるとうれしいな」と言う。
立ち歩きそうになったとき、「先生のところに来て、これを持ってくれるとうれしいな」と言う。
平山氏は、「役割を与える」ことで、セロトニンが分泌されると言う。
自分が認められているという感覚が生まれるからである。
A君の場合、重たい物を持ったり、決まった部分の汚れをきれいに磨いたりすることが好きであった。
A君に役割を与え、してくれたことには思いっきりほめた。

⑥「(ノートに)書いてる、書いてる」「(ノートに)書いてる、書いてる」「(ノートに)消してる、消してる」「いい顔、いい顔」など、にっこりほほ笑んで事実を話題にする。

事実なので、教師も簡単に口に出すことができる。
A君に効果的だったのは、「~しようとしているね」であった。
偶然鉛筆を持っていれば、「書こうとしているね」と言った。
この言葉がけで、A君がノートに書き始めることが多かった。
かまってもらっている感じがでることがポイントであった。
平山氏によると、二回繰り返すことでリズミカルな感じがするのも効果的だという。

2 ドーパミン、ノルアドレナリンを高める実践

平山氏は、セロトニン5の他に、ドーパミン系スキル(楽しくなり、集中力が高くなる対応)、ノルアドレナリン系スキル(緊張し、注意力や意欲が高まるスキル)を提唱している。
「おしい!99点!」
「正解まであと1センチ!」
「銀メダル!」 高得点主義という。
ドーパミンを高める実践である。
「まちがっています」とか「ちがいます」と子どもを否定するのではない。
ミスがあっても、99点なので、間違った感じがしない。
A君は、少しずつ発表をするようになった。
A君の様子を見て、教師の否定的な言葉はA君の自尊心を下げるだけではなく、周りの子どもの評価も下げていたことに気がついた。
A君の発表の様子を、ニヤニヤしながら聞く子どもがいたのだ。
A君がクラスメイトに暴力をふるうのは、自分が否定的に見られたり、失笑されたりしたときだ。
私自身が、A君に自信をなくさせるようにしていたのだ。

・参考文献 満足脳にしてあげればだれもが育つ! 平山諭著 ほおずき書籍