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【中学理科・実験の危機管理】硫化水素対策 -硫化鉄は耳かき一杯程度で!-

教科書に掲載された試料の量では,硫化水素の発生量は限られるはずだか、この事故で考えられる原因は,硫化鉄と反応させる塩酸が濃すぎる場合や、意図的に嗅ぐ行為の注意が足りない場合が考えられる。
中学校理科の教科書会社5社を比較し,どのような実験が最適かについて検討する。

 中学校理科学習指導要領・解説(H29告示)では、「鉄と硫黄の混合物を加熱する実験」については,『反応前とは異なる物質が生成することを見いだして理解する』ことを第一義とし,化学変化を原子・分子レベルで説明できるようにモデルを使いながら,化学変化について化学式や化学反応式で表せることをねらいとする。
 さらに、解説には以下の記述がある。

 まさに「鉄と硫黄の混合物を加熱する実験」は花形の実験。事故などを防ぐために、『適切な実験の方法や条件を確認』を現行の教科書比較により行いたいと考えた。
 下の表は,各教科書会社の記述を私が注目した視点でまとめたものである。

■硫化鉄の量は?

 各社は,硫化鉄の量については「少量」と表現されており,明確な量について記述されていない。
間 英法氏(新潟県公立中学校教諭)※2は,
「硫化鉄の量をマッチの軸より一回り小さいくらいの量にする」と紹介されており非常に参考になる。

 私は,小森栄治氏(理科教育支援センター/理科教育コンサルタント)から,「硫化鉄は耳かき一杯程度でよい(文責:久保木)」という表現を教えていただき,追試している(写真下)。

■塩酸を加える容器は?

 5社のうち4社は,試験管。1社(大日本図書)はペトリ皿を使用。
 “しっかりと手であおぐようにしてにおいを確認する”よう指導するが,生徒によっては試験管の口に鼻を直接近づけてにおいを確認する場合がある。

その際,漆畑文哉氏が警鐘しているように「発生したばかりで空気中に拡散していない硫化水素は局所的には高濃度になるため,急激に吸い込めば危険」とあるように,試験管だとそのようなリスクが高まると考え,ペトリ皿を採用した。

■塩酸の濃さは?

 各社,塩酸の濃度はバラバラだ。そもそも用意する鉄と硫黄の量が5社とも違うので,加える塩酸の濃度も違うのだろうか。
 ここは,薄すぎる(私の予備実験では3%以下である)と硫化水素のにおいや反応も確認しづらくなる(ペトリ皿の場合)。塩酸5%程度が適切であると判断した。

 環境や目の前の子どもたちの状況などさまざまな条件があり,それらに照らし合わせて教師が適切に判断し,安全に観察・実験ができるような力量を高める必要がある。
そのためには予備実験も大切である。