バトンパスは「左手受け」の方が有効
従来,バトンパスは「右手受け左手渡し」で指導されてきた。これが常識といっていいほど浸透している。しかし,私の主張は全く逆である。
「右手受け左手渡し」よりも「左手受け右手渡し」の方が有効である。

1.「左手受け右手渡し」の有効性
従来,バトンパスは「右手受け左手渡し」で指導されてきた。これが常識といっていいほど浸透している。しかし,私の主張は全く逆である。
「右手受け左手渡し」よりも「左手受け右手渡し」の方が有効である
この主張の正しさには確信を持っている。
根拠は次の5点である。
(1)前走者を捉えやすい
左手でバトンを受けるようにすると,常にトラックの内側に体を向けて待つことになる。内側に体を向けていれば,レースの様子が把握しやすくなり,コーナーを回ってくる前走者を捉えやすいので,スタートが容易になる。
(2)空いたインコースに気付く
通常,リレーはコーナートップで行うが,右手でバトンを受ける場合は,トラックの内側に背を向けているために,インコースが空いたときに容易に詰めることができない。左手で受ける場合は,トラックの内側に体が向いているので,インコースが空いていることに気付き,容易に内側に詰めることができる。
(3)コーナーを走りやすい
バトンを持つということは,その分だけ腕が長くなると考えられる。長い方の腕を大きく振る方が自然なのではないかと考えられる。そうすると,右手に持ってコーナーを走った方がよいということになる。オリンピックなどの400mリレーでも,カーブを走る第1走者,第3走者は右手にバトンを持っている。
(4)走る距離が短くなる
左手でバトンを渡す方法では,相手の右手に渡すために,自分の体の分を外側に走ってバトンを渡さなければならならない。結果的に走る距離が長くなってしまう。右手でバトンを渡す場合は,自分の体の分だけ内側に寄って走るので,走る距離は短くて済む。
(5)バトンパスの後,安全にフィールドに抜けられる
右手でバトンを渡すと,相手の左手に渡すので自然とインコース寄りになり,安全にフィールドに抜けていくことができる。
2.全国セミナーでの実証
この主張の正しさを,今回は授業で証明しなくてはならない。論より証拠である。
そのために必要なのは,一つは場づくりである。
「左手受け右手渡し」の有効性が分かりやすい場づくりとして,今回は円形の場で行った。この場の設定だと,従来の「右手受け左手渡し」は極めて不利になる。円の外側に体を向けて,前走者が走ってくるのを右側から捉えようとすると,体勢は極めて不自然になる。逆に円の内側に体を向けていれば,カーブを回ってくる前走者を捉えやすい。
今回の子役の先生の意見でも,「左手受け右手渡し」の方が前走者の様子を捉えやすいと出ていた。
円形の場だから「左手受け右手渡し」が有効なのであって,直線でバトンを受け渡す場合は関係ないのではないかと思われた方もいるようだが,そうではない。校庭のトラックで走る場合には,カーブが終わるとすぐにテークオーバーゾーンになることが多い。すると,トラックの内側に背を向けていては,コーナーを回ってくる前走者を捉えにくいのである。
もう一つはタイムである。「左手受け右手渡し」のタイムの方がよければ,納得できる。
結果は次の通りであった。
黄チーム 28.8秒(右手受け)→26.15秒(左手受け)
青チーム 25秒(右手受け)→24.6秒(左手受け)
3.更なる検証が必要
今回の模擬授業では「左手受け右手渡し」の良さが実証できた。また,私の子ども相手の実践でもその有効性は確認できている。しかし,これは微々たる実践である。
私が2012年10月に『体育科教育』(大修館書店)執筆した「バトンパスの常識を疑う」の論文をきっかけに,「左手受け」バトンパスは徐々に浸透してきている。
筑波大学附属小学校でも取り上げられているほか,スポーツ庁のホームページ「小学校体育指導の手引き」でも取り上げられている。
今後,多くの先生方に追試していただき,「左手受け右手渡し」の実証性を高めていきたい。
そして「左手受け右手渡し」がTOSS体育のみならず,日本の体育のスタンダードになるとよいと思っている。